南蛮音楽×リコーダー~情報が知識に変わるとき~
5月18日。夏の陽気を感じる暑い昼間とはうってかわって、柔らかい風が吹きはじめた夕暮れ時。京都市立芸術大学で、日本とスペインの外交関係樹立150年を記念し、「南蛮音楽〜イベリア半島から日本への音楽の旅〜」と題した演奏会&レクチャーが行われた。
会場入りした途端、目に飛び込んできたのは大きさも形も異なる20種ほどのリコーダー。その多彩な出で立ちに、早速、音色を聴く前からワクワク感が加速した。開演後は、演奏に先立ってリコーダー・アンサンブル「ラ・フォリア」の創設者でマドリッド音楽院教授のペドロ・ボネ氏によるレクチャーが行われ、「ラ・フォリア」の活動軌跡のほか、「南蛮音楽」の系譜や、演奏楽曲の解説が行われた。このプロローグは、続くリコーダー演奏鑑賞時の大きな導き手となったのは言うまでもない。
当日演奏されたのは、ゴンサーロ・デ・バエナ作曲〈クルチフィクスス〉や、バルタサール・マルティヌス・コンパニョン作曲〈エル・コンゴ〉、そして、隠れキリシタンの歌として知られる〈サン・ジュアンさまの歌〉など、開国期以前の日本、あるいはアジア圏と西洋とを繋いだ23曲。初めて耳にする曲が大半であったが、どこか懐かしく、温かい音色は常に耳と心を心地よく包む一方、終始、種類により異なる色彩を演出するリコーダー音楽の多面的な表情に魅了された。
筆者は、16世紀~19世紀頃に執筆された日本関係欧文図書(西洋各国の言葉で書かれた日本に関連する書籍)を手にする機会が多い。そこには、西洋に伝聞された日本文化に関する記述のほか、日本の政治・経済政策についても多様に文面化され、さらにはキリシタン弾圧の模様や、戦国時代に西洋に渡った日本人使節団についても刻銘に描かれている。
とりわけ、今回の演奏を聴きながら思いを馳せたのは、天正遣欧使節団と慶長遣欧使節団の存在。天正遣欧使節団は戦国時代、カトリック世界に日本人を紹介し、自身たちの布教活動を有利に展開するためにイエズス会が企画し、日本から西洋を目指して大掛かりな航海を行った。その後に派遣された慶長遣欧使節団は、当時スペイン領であったメキシコとの通商関係樹立を目指して、伊達政宗により企図された外交使節団であった。
国交も通商関係もない遠い異国の地で、彼らは何を目にし、何を耳にしたのか。常々気になっていた。今回のコンサートでは、使節団も西洋各地で聴いたかもしれない、同時代のゆかりのある音楽を聴くことも叶った。そのお陰で、これまで情報として垣間見ていた史実が、聴覚を通じ、生きた知識として筆者の中に根付いた気がする。
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